この2週間ほどの間に標題の映画3作品を観て、展覧会も2つの美術館をハシゴした。
ただ、それぞれをすぐに書かないとこうして滞ってしまう。箇条書きで一言ずつ書こうかな、とも思っている。
まずは映画から。
『憐れみの3章』by ヨルゴス・ランティモス
ヨルゴス・ランティモスは初期の頃から好きだった。が、最近はすっかりゴージャスになってしまった感があり、今回少し心配しながら足を運んだのだが、それは杞憂だった。良い意味で初期の頃に戻ったような(それもそのはず『聖なる鹿殺し』の頃から脚本を書き続けていたようだ)、実験的な手触りがある。
冒頭、ユーリズミックス『Sweet Dreams』で始まり、その後の音楽はピアノと合唱で進行。いきなりウィレム・デフォーとジェシー・プレモンスの異常な関係性が展開する。
「愛」と「支配」をめぐる3章の物語。同じ俳優が章に応じて別の役を演じていくのだが、どこか根底で繋がっている。
危うい刺激が、中毒になりそうな作品なのだ。
『画家ボナール ピエールとマルト』by マルタン・プロヴォ
ボナールをヴァンサン・マケーニュ、その妻マルトをセシル・ドゥ・フランスが演じている。映画が始まるなり、官能的な肌の温もりが伝わってくるようで、そのまま引き込まれていった。
19世紀末、ナビ派の画家としてスタートしたボナールは、マルトと出会い、共に暮らし始める。紆余曲折がありながらも、生涯で描いた2000作品の1/3以上でマルトをモデルに描いた。だが、ボナールガマルトと結婚したのは、出会ってから30年も経ってからで、それまで本名も年齢も出自も知らなかったという。ボナールも変わっているけど、マルトも相当なものだ。
美術学校のモデルとして知り合った若い女性ルネと逃避行するも、結局はマルトを選んだボナール。不安だったマルトが引きこもって描いたパステル画はモネが評価するほどで、この時に一度だけ展覧会を開いている。展覧会の会場で、ルネの自死を知り具合が悪くなったボナールに、「家に帰りましょう」と告げるマルト。「だって、展覧会が……」と気にするボナールに、「そんなのどうでもいい」と返すマルト。ここにマルトのボナールに対する愛とリスペクトが表れている。
本作では、2人の晩年まで描かれる。静かな愛情に包まれた暮らしは、人生に不穏な思いを抱えてきたボナールを美しい自然の花々のように包んでいた。
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』by ケヴィン・マクドナルド
2021年、ショッキングなニュースが、瞬く間に全世界へと流れた。クリスチャン・ディールのデザイナーとして活躍していたジョン・ガリアーノが、パリのカフェで見ず知らずのカップルに反ユダヤ主義的暴言を吐き、逮捕されたのだ。その時の動画が拡散し、ガリアーノは有罪となり、ディールからは解雇され、すべてを失ってしまう。その後、贖罪と更生の時を経て、2014年にメゾン・マルジェラで電撃復活を果たしたガリアーノ。事件から13年、本人がカメラの前に座り、「洗いざらい話す」と語り出す。
驚異的なハードスケジュールで心身ともに壊れ、アルコールや薬に依存していたガリアーノが暴言を吐いたからと言って、ただ責めるというよりは、救いやケアが必要だと思う。
ただ、被害者が今でも調子が悪い様子を見ると、言葉による暴力でも、そのダメージたるや計り知れないことがよくわかる。
ガリアーノ自身、この映画で怒りを露わにしている被害者が映ることを受け入れている。まさしくHIGH &LOWの人生は、天才だからこそ与えられた特別な気づきの体験なのだろう。
そんなわけで、駆け足の映画編。
近いうちに美術編も書いてみたい。
Bon Voyage★