前回のブログ(『憐れみの3章』『画家ボナール ピエールとマルト』『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』)の後、またしても間が空いてしまった。
実は、11月の初めは東京にいた。これまでそうしていたように、東京国際映画祭のチケット売り出し日に、つい1枚購入してしまったのだ。それは、ラヴ・ディアスの『ファントスミア』という映画で、嗅覚障害を意味するタイトルに思わず反応してしまったのだった。
なので、2泊3日で11カ月ぶりの東京へ向かい、3つの展覧会(「SIDE CORE展」@ワタリウム美術館、「田中一村展」@東京都美術館、「高橋龍太郎コレクション」@東京都現代美術館)と上記の映画『ファントスミア』を観た。
これまでだと秋の映画祭シーズンは、東京国際映画祭(以下TIFF)と東京FILMeXで合わせて多い時は何十本も観ていたのが、たった1本(^^;)。
今回は少ない日程の中で、もうすぐ終わってしまう展覧会の方を優先した結果である。改めて、東京在住時は美術鑑賞にあまりにも恵まれた環境だったのだとしみじみ痛感した。
そして、戻って来て、神戸の映画館で『動物界』を鑑賞。
考えてみたら、昨年末に東京から関西に移り住んでから観た10展示ことを全然書いていなかったので、それらについても簡単に備忘録として書き留めてみたい。
<映画>
★『ファントスミア』byラヴ・ディアス
嗅覚障害を意味するタイトルに反応して鑑賞を決めたのだが、私が期待する嗅覚とは異なる社会的アプローチの映画だった。そりゃそうだ、ラヴ・ディアスだものね。それはそれで惹きつける確かな力があった。
(結局、展示を観に行くために途中退席してしまった。なので、後半で別のアプローチに転じる可能性もないことはない。何のために遠出したのか^^;)
★『動物界』
原因不明の獣化現象のパンデミックが蔓延する近未来の設定らしいのだが、パンデミックという風には感じられなかった(私は)。獣化した母親の面会に行く時も、特に感染を心配しているようでもなかったし。ただ、無関心だった主人公の少年が自分の体に異変を感じるようになってから、意識がだんだん変わっていく。やがて父親が息子の変化に気づくのだが、妻も息子も獣化した現実に対して、変わらぬ愛で突き抜ける。その様がホラーではなく、愛の物語に向けて解放される。
<展覧会>
★コレクション大航海
色々な地図(昔の日本地図など)が展示されていたのだが、今となってはよく覚えていない^^;
★横尾忠則ワーイ!★Y字路
横尾忠則美術館には初めて行ったのだが、横尾自身のコレクションが素晴らしい。また観に行きたい。Y字路に対する執念がこれでもかと様々なバリエーションを生み出し、圧巻の凄まじさ。併設されたカフェも、横尾忠則デザインの食器が使われていたりして楽しい。
★高濱浩子展@SEWING TABLE COFFEE
ときどき絵のワークショップでお世話になっている高濱浩子さんの泥で描いた絵の展示@星ヶ丘。日本の中にいることを忘れるようなプリミティブな空間に作品が溶け込んでいた。
★デ・キリコ展
12/8まで神戸市立博物館で開催されているデ・キリコ展。お馴染みの作品はもちろんだけど、私はコクトーに捧げられた連作版画や水彩画の危うさの方が好みである。
★黒猫同盟
キムラトモミ&ネコニハチマキのユニットで、数々の手芸作品やアクセサリー、絵画、演奏まで繰り広げられ、猫への愛がひしひしと伝わってきた。
梅津庸一の大規模な展覧会@国立国際美術館。まだ40代の作家にこれだけの機会を与えるアクティブな美術館である。新作のユニークな陶芸作品やシルクスクリーンの見事な壁紙など見どころ満載。浅田彰氏とのトークもトンがっていて、刺激的だった。
★TRIOパリ東京大阪モダンアートコレクション
国立国際美術館に隣接した中之島美術館で開催されていた、一粒で何味も堪能できる幅広い構成が贅沢。
★石村嘉成展
兵庫県立美術館にて。自閉症だった作者が版画に出会ってから、美術制作に活路を見出し、母を亡くした後も逞しく制作を続けているというプロフィールが注目されている。特に動物を描くことが好きらしい。エネルギッシュだ。架空の動物も描いているのが面白かった。
★SIDE CORE展
ワタリウム美術館の会員なのに、今年は一度しか来られなかった。公共空間や路上を舞台としたアートプロジェクトを展開するSIDE CORE。4Fでは壁、床、天井などすべてを使った映像にドキドキさせられた。
★田中一村展
話題の田中一村展にも足を運んだ@東京都美術館。事前にTVでもネットでも放送されまくりだったので、既視感ハンパないと言っても過言ではない。田中一村は早熟で、幼少期から研ぎ澄まされた精緻な画力を有した作家だ。無名だったと強調されているが、奄美に美術館もあるし、その実力は晩年認められていたと思う。確かな画力に加え、異様なまでの怪しさに到達した作品は、鬼気迫る凄みに満ちている。
★高橋龍太郎コレクション「日本現代美術私観」
精神科医であり美術蒐集家の高橋龍太郎氏によるコレクション。終了直前だったので、雨の中ヨロヨロになりながら向かった。そして、その圧倒的な量と質に驚き、ただただ呆然と見惚れてしまった。これらは日頃どこに収蔵されているのだろう。その場所自体が美術館ではないか。
★坂口恭平展「everyday」
神戸の阪急岡本駅から山側へ向けて約8分ほど歩いたところにある、OAG Art Center Kobeという隠れ家のようなギャラリーで坂口恭平展が開催されていることを、芦屋川の風文庫店主から教えていただき、大慌てで観に行った。坂口氏が鬱の時に作ったというアルバム「everyday」の曲が流れる空間に、気になっていたパステル画を中心に多彩な作品を展示。場の雰囲気と相まって、何ともナチュラルな心地良さで満ちていた。
★「背表紙の拍子」展、「紙と本と私」展、「あわいーin between」展など
上村亮太の制作による架空の背表紙が舫書店の書架に紛れ込んでおり、それらを発見し、感想を書いたり答え合わせをしたりするという展示と試み。これって寺山修司的では! とちょっと思った。いや〜、私は一冊しか見つけられなかった(^^;)
同じく舫書店では、空間の仕掛けが面白かったマスダマキコ「紙と本と私」展、コウゴカナエ「あわいーin between」展など、展示を観ながら本を紹介していただいたりして、大変お世話になっている(私が作ったzineも置いてもらっている)。ありがたい限りである。
神戸およびその周辺には、小さくて個性的な本屋さんやカフェがあって、展示も行われており、その自然な豊かが素敵だと思っている。
実は、もっと展示を観ているのだけど、今日はこれくらいにする(それぞれ短くても、さすがにバテてきた)。
駆け足の備忘録なので、ちょこちょこ追記修正に戻ってくるかも。
寒くなってきたので、ご自愛のほどを!
Bon Voyage★