(同時上映『骨』)
その前にも何本か観たのだけれど(『君たちはどう生きるか』『ボス・オブ・イット・オール』『パール』『バービー』など)、ちょうど退職へ向けての引き継ぎ等で忙殺されていて、なかなかこちらの方に来れなかったのだ。
(そう、久しぶりにフリーの身に戻るというわけ)
そのうちまとめて一言ずつ感想を記してみたいが、私にとって、本作はそれらを遥かに凌駕してしまうほどだった。
とにかく驚かされたのは、一瞬たりとも止まることなく変化し続けていく、まるで生き物のように有機的なアート作品だということである。
それは、同時上映の『骨』も同様で、狂おしく幻惑的で危険な魅力に満ちている。
しかも、本作はアリ・アスター監督が絶賛しており、『骨』の製作総指揮も務め、次作のアニメーション部分まで依頼するほどの惚れ込みようだという。
ピノチェト独裁政権と共謀して南チリで残虐の限りを尽くした、パウル・シェーファー設立のドイツ系移民を中心としたコミューン「コロニア・ディグニタ」にインスパイアされて生まれた作品。
美しい山々に囲まれたチリ南部のドイツ人集落。“助け合って幸せに“をモットーとするその集落に、動物好きなマリアという美しい娘が暮らしていた。ある日、ブタを逃してしまったマリアは、厳しい罰に耐えられず脱走してしまう。逃げ込んだ一軒家で出会った2匹のブタに「ペドロ」「アナ」と名付け、世話をするようになるのだが…
森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえ始め、だんだん悪夢のように恐ろしい世界が展開していく。
実物大の人形や絵画を融合させ、いくつかの美術館で撮影したらしく、制作過程をそのまま反映させた手法が、思いがけなく禍々しい効果を生み出している。
あまりにも独裁的な世界に抑圧されていると、やがて人は生き延びるために自分を歪めざるを得なくなり、そうして呑み込まれ巻かれていく。
ひたすら凄まじい才能を浴び続ける、目眩く74分。
La Casa Lobo
監督:クリスタバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
出演:アマリア・カッサイ、ライナー・クラウゼ
2018年/チリ/74分
久しぶりにパンフレットも購入してしまいました。