forest gardenの覚書

in the forest garden:映画/芳香/文体/猫/天使・・・魔法香水、作ります。

『ボーはおそれている』『遺言 奇妙な戦争』『落下の解剖学』『コット、はじまりの夏』

引っ越してからしばらくは映画館へ行く気分じゃなかったけれど、一度出かけてしまえば、色々と観たくなり、遠方の映画館まで朝一で飛んで行くまでに復活してきた。まめにブログを書かなかったために幾つも溜まってしまったので、まとめて備忘録として簡単な感想を書き留めてみる。

 

★『ボーはおそれている

待望のアリ・アスター監督の新作…とばかりに初日に駆けつけるも、ただただ延々と“ボーはおそれている”状態が続くばかりで、最初のうちは楽しんでいたのだが、さすがに後半はちょっと食傷気味になってしまった。

冒頭から、ボーが治安の悪い場所に住んでいることがわかる。そして災難が起こり、怪死した母親の元へと旅をするも、最後まで奇妙な災難ばかりが続く。何とか実業家の母の豪邸に辿り着くのだが、そこで災難が終わるわけではなく、さらなる事態が待ち受けている。

しかし、なぜ御曹子のボーがデンジャラスな場所に住んでいたのか、何をしていたのかは謎である。

気が小さいマザコンのくせして、母に反抗して家を出ていたのだろうか。

 

★『遺言 奇妙な戦争

JLGの遺作とされる20分の短編映画。サンローランプロダクション制作。

ゴダール手書きのスケッチ、写真、映像などのコラージュに、彼自身の肉声や音が融合。ありがとう、また会えたね!と言いたくなるくらい、いかにもゴダールらしい世界が強烈に展開する。

20分という短さも合っているし、心弾みながら観ることができた。

 

★『落下の解剖学

カンヌでパルムドールを受賞した法廷サスペンス。

雪深い山荘で、夫が謎の転落死を遂げる。第一発見者は、犬の散歩から帰って来たばかりの視覚障がいを持つ息子。最初は転落死とされていたが、不審な点が多く、前日に作家である妻と喧嘩していたこともあり、妻が容疑者として疑われる…というお話。

ただ、第一発見者が視覚障がい者という設定や、妻が作家で夫は作家になりたくてなれない教師という設定は、カンヌにしてはわかりやす過ぎる感じがする(フランス映画が苦手な観客にとっては観やすいかもしれない)。

それでも、結局他人のプライベートや密室の出来事を、こちらは推測することしかできないから、もやもやするばかりなのだった。

妻をザンドラ・ヒューラーが演じたことで緊張感や得体の知れなさが保たれている。

 

★『コット、はじまりの夏

これは、ベスト・オブ・ワンと言ってもいい作品。子供主演のオーソドックスな映画だろうと思って観るのを迷っていたが、観て良かった。別格の気品がある。

まだ6歳だが繊細な感受性を持つコットは、家にも学校にも自分の居場所がないと感じながら、大家族の中で静かに暮らしている。母親がお産をする夏の間、親戚のショーンとアイリン夫婦の家に預けられることになり、2人の愛情をたっぷり受け、日々を丁寧に暮らすうちに、生きる喜びに目覚めていく。

日常での幸せは、それが当たり前に在ると、人は自らの人生に不貞腐れた日々を送ったり、ぞんざいな態度になったりもできる。でも、当たり前にあるはずだったものが失われると、人為的な何かで埋めようとしたりする。それは人間としての気品を保つ努力の場合もある。日々の生活を大切に暮らすことで、悲しみを生き抜いていく。

それに対して、外には色々な人がいる。低俗な人や、他者を傷つけようとする人も。

ショーンはコットに語る。「アイリンは人の長所を見ようとする。失望したくないからだ。それでも打ちのめされることがある」

最初は無骨に振る舞っていたショーンも、だんだん打ち解けた優しさが自然に滲み出るようになり、コットと彼らの相互作用が生まれていることが見て取れる。

そこまでは描かれていないけれど、たぶんコットはこの家の子になるような気がした。

 

以上、備忘録として。

Bon Voyage★