「シャンタル・アケルマン映画祭」が、4/7(金)から4/27(木)までヒューマントラストシネマ渋谷で開催されている。他の都市の映画館でも近日公開予定なので、気になる方はぜひ公式サイトを要チェック!
去年も開催され、足繁く通ったシャンタル・アケルマン映画祭だけれど、今年はさらに本映画祭での初上映となる作品も加わり、より充実したラインナップとなっている。
初日と翌土曜日のトークイベントのある回には行けなかったのだが、アケルマンの記念すべき処女作であり初上映の『街をぶっとばせ』と『家からの手紙』の2本を鑑賞した。
シャンタル・アケルマンは、1950年6月6日、ベルギーのブリュッセルに生まれたユダヤ人の女性でバイセクシャルでもある映画監督(母方の祖父母はポーランドの強制収容所で死去。母親は生き残ったという)。25歳の時に平凡な主婦の日常を描いた3時間を超える『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を発表し、世界中に衝撃を与える。ジャンルや形式にこだわらず数々の作品を世に放つが、母親との対話を中心としたドキュメンタリー『No Home Movie』を編集中に母が他界。完成後の2015年10月、パリで逝去する。
Saute ma ville
監督・出演:シャンタル・アケルマン
撮影:ルネ・フルシュター
1968年/ベルギー/モノクロ/12分
花束を手にアパートの階段を駆け上がるひとりの女(アケルマン)。
彼女の口ずさむ鼻歌がそのままBGMのように流れ続ける。
まるでキッチンだけのような狭い部屋(他にも部屋があってのキッチンに見えないというか)で、パスタを作って食べ、調理器具をばらまき、洗剤をまき散らし、マヨネーズを浴び、靴を磨く(足までも^^;)。
狭苦しいキッチンでやりたい放題に暴れ回ったかと思うと、鏡に向かって美容液を塗りたくり、文字を描く。
そして、何となく題名から連想できるかもだけど、彼女の行動は既成概念をぶっ飛ばす自爆テロのように幕を閉じる。
思えば、彼女はキッチンをよく撮ってきた。
キッチンに始まり、キッチンで終わる。
日常の中に秩序があり、希望があり、退屈があり、不安があり…狂気がある。
そのことを痛切に知っていた映画作家なのだと思う。
そして、もう1本。
News from Home
監督:シャンタル・アケルマン
撮影:バーベット・マンゴルト、リュック・ベナムー
1976年/ベルギー・フランス/カラー/85分
初っ端、ひどく寂れた風景が映し出される。
だんだん活気のある大通りや地下鉄内外、路地などにカメラは移動し…
1970年代ニューヨークの荒涼とした街並みに、母からの手紙を読むアケルマン自身の声がかぶさる。
母親からの手紙は頻繁で、「10日も返事がなくてびっくりしました」とか「もっと手紙を書いて」とかばかりで、凄く圧を感じる。
1カ月に一通でもよく書いている方だと思うけど、まるで粘着質の恋人みたいだ(^^;)
固定ショットやトラベリングで映し出される公共のロケーションと、プライベートの愛情あふれる言葉の融合。
そして、都会の寂しさと、遠く離れた家族の距離感。
それらが詩情を湛えるラストへと流れ込んでいく。
アケルマンの時間を体験させていく作風は、この時すでに確立されている。この1年前には『ジャンヌ・ディエルマン…』を撮っているのだから。
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次の週末にでも、文字通り様々な人たちが一夜を過ごす『一晩中』という作品を観られたら…と思っている。